育毛効果を証明することは難しい?
「AERA」6月10日号の「本当は怖いEDとハゲ」特集は、「とにかく慎重な内容」という印象でした。科学的・医学的に証明されていないこと=眉唾もの、と読み取ってしまう人もいたのではないかと思います。
しかし「証明されていない」というのは「効果がないことが証明された」ということではありません。
「証明する」ということは案外難しいことです。複数の人を2グループに分けて被験者になってもらい、何年もの間追跡して調査をするというのは簡単なことではありません。しかも人間は一人ひとり体質や体の状態が違うので、ある人には劇的に効いたように見えても他の人には全く効果が見えない、なんていうことも多いでしょう。
日本皮膚科学会が2010年に発表した、男性型脱毛症(AGA)診療ガイドラインとは日本皮膚科学会と毛髪科学研究会が共同で策定した信頼度の高いガイドラインです。医学的、科学的根拠から判断され、多種多様な治療法の中から男性型脱毛症(AGA)に悩む人が自分に合った薄毛治療法を選ぶひとつのものさしとして参考にできるガイドラインです。
その中に、各治療方法について奨励度A〜Dのランキングあり分類されているようです。
推奨度「A:(治療を)行うよう強く勧められる」とはどういうこと?
2010年版「男性型脱毛症(AGA)診療ガイドライン」では、2つの成分、男性にフィナステリド(内服)と、男女共にミノキシジル(外用)が「A:(治療を)行うよう強く勧められる」とされています。
この2つは「医薬品」として厚生労働省から認められているものですから、医学的に効果が証明されているのは当然ともいえます。効果があやふやなものが「薬」として流通するようでは困りますよね。
(ガイドラインの詳細はネットでも確認できます)
しかし厄介なのが、「医学的根拠」と「体全体の健康」は分けて考えなければならないということです。薄毛(男性型脱毛症)の改善だけを考えれば「フィナステリドやミノキシジルは強く勧められる」と言えます。「強く勧められる」なんて言われると、あたかも体全体の健康にも良いような錯覚も覚えてしまいそうですが、そういう訳ではありません。フィナステリドには前立腺ガン予防の効果はあるようですが、これもまた「ガン予防=健康増進」という訳ではないのです。
例えば抗ガン剤で考えるなら?
抗ガン剤で考えるのが一番分かりやすいでしょう。抗ガン剤を投与すると確かにガンは小さくなるかも知れませんが、ガン以外の体全体が受けるダメージも相当なものです。それなのにガンという局所だけを見て「効果がある」と認定されています。そんな薬がごまんとある、ということは頭の片隅に入れておいてもいい情報だと思います。
フィナステリドとミノキシジルには今のところ重篤な副作用が起こる可能性は低いようですが、数十年単位で使い続けた際にどんな副作用が起こるかは未知数です。数十年前には日焼けが健康の象徴のように扱われていたのに、今では紫外線の害が次々と明らかになっています。
医学が進歩している限り、こんな「てのひら返し」はいつ起こってもおかしくありません。
医学や科学が日々進歩しているということは、現在の医学や科学が不完全だということです。
推奨度「C1:行ってもいいが十分な根拠がない」とはどういうこと?
塩化カルプロニウムやt-フラバノン、アデノシンなどの成分は、男性型脱毛症(AGA)診療ガイドラインによると「C1:行ってもいいが十分な根拠がない」となっています。
「根拠がない」なんて文字にして言われてしまうとちょっとガッカリする方も多いでしょうが、ちょっと考えて欲しいと思います。
「根拠がない=効果がないことが証明された」ではありません。
前項でも説明しましたが、とにかく証明というのは難しいものです。第一三共ヘルスケアや花王、資生堂という大きな企業(研究員も研究費もかなりのものでしょう)が実験を繰り返し、それなりの成果があったからこそ製品として出しているのでしょうが、それでも「十分な根拠がない」と言われてしまうのです。
(塩化カルプロニウムは第一三共ヘルスケアの「カロヤン」シリーズ、t-フラバノンは花王の「サクセス」シリーズ、アデノシンは資生堂の「アデノゲン」に配合されている成分です)
個人的な憶測ですが、C1やC2(根拠がないので勧められない)の成分、あるいはガイドラインに載っていない育毛成分は「食品」のようなものだと思っています。
米や豆、玉ネギ、ニンジン、魚など普通の食品はバランスよく摂れば健康に良いのは常識です。食品それぞれの特性もあり、例えば玉ネギは血液サラサラ効果があるとか腎臓にいいとか言われたりします。
しかしそういう効果はあくまで緩やかなもので「この食品の効果だ」という証明はできないことが多いので、食品そのものが医薬品として認定されることはまずありません。(食品から抽出した成分が医薬品となることはあります)
なぜ「○○にいいらしい」と広く言われていても証明ができないのでしょうか?
それにはやはり「個人差」という壁がまずあるでしょう。人それぞれ体質も症状の度合いも原因も違うので、一概に結果が出ないのです。
例えば血圧を下げる薬は血圧が低い人が飲んでも下がってしまいますが、食品であれば適正血圧を下げてしまうことはありません。逆に言えば効果が証明された医薬品は、そういう要素を無理やりねじふせて体に言うことを聞かせていると考えることもできます。
症状の根本解決には時間が必要
また「根本解決には時間がかかることが多い」ということも理由の一つでしょう。食品の効果というのは表面的な効果ではなく、体質改善、根本的なところからの改善が期待できます。
ただ血圧を下げるだけならば薬を飲めばその日からでも下がります。しかしそれは根本解決ではありませんので、多くの場合死ぬまで薬と付き合うことになってしまいます。
一方で根本的に解決しようと思ったら根気が必要です。高血圧であればそもそも原因がはっきりしない(本態性高血圧)ので、血管を若返らせるような食事をする、減塩する、ストレスを減らす……など様々な角度からの対策が必要になります。
(ストレスがそんなに簡単に減らせたら苦労しないですよね……)
ところが根本だけ解決しても、なかなか目に見える効果まで波及するのは簡単ではないものです。
勉強や仕事でも、正当に努力して結果を出そうと思ったら数年単位の時間がかかるでしょう。「明日のテストの点数をとりあえず上げたい」「今月のノルマをとりあえず達成したい」などとすぐに数値目標を上げたいと考えると、丸暗記やカンニング、返品ありきの納品など無理のある手段に頼ることになりがちです。
以上を踏まえて考えますと、「根拠がない(証明されていない)」ということは必ずしも悪いことではない、と思えてくるのではないでしょうか?
・「個人差」を考慮していきすぎない効果を与える。
・効果が目に見えなくても「根本」は解決される。
とにかく体に無理がなく、数十年続けても副作用の心配がほとんどないことが、C1やC2、またガイドラインに載っていない育毛成分のいいところだと思います。
(※ただしC1成分やその他の成分でも、「医薬品」という表示のある製品は基本的に副作用の可能性があります。医薬品については、漫然と使用を続けることは避けましょう)
もちろん男性型脱毛症(AGA)の原因の根本は遺伝子によるところが大きいですので、遺伝子を変えることはできないため、その意味では「根本を解決する」ということはできません。しかしAGAの原因とされるジヒドロテストステロン(DHT)が増える原因には生活習慣も関係している可能性が高いです。ハーバード大学の調査で、喫煙がDHTを増加させる原因になるということが分かっています。
(フィナステリドはDHTを減らす薬です)
髪の毛というのは体の臓器に比べたら優先順位が低いものです。喫煙は体を痛めつけることにつながりますので、痛めつけられた体が髪の毛を養う余裕がなくなって毛髪をリストラしている……そんな仮説を立てることもできます。
サプリや育毛剤で体や頭皮の状態を整えることで、薄毛の進行を少しでも遅らせることはできるのではないかと思います。