フィナステリド・ミノキシジルを使う前に【薬】とは何かを知っておこう。「西洋薬」と「漢方薬」

フィナステリド・ミノキシジルを飲む前に「薬」を理解しよう

前回解説した【「AERA」の特集、EDとハゲに関する記事について】の中では「頭皮を刺激すると(血行を良くすると)毛が生えてくる」という通説を科学的根拠がないと批判したりするなど、男性型脱毛症診療ガイドラインに載っていないものを全てうさんくさいものであるかのように書いている節があります。
科学的・医学的根拠のない薬をむやみに使うことは確かに良くないことでしょう。記事内にはお医者さんの発言もいくつか出てきますので、科学的・医学的根拠を重視するような方向の記事作りになるのは当たり前だと思います。

手のひらの薬しかしちょっと考えて頂きたいことがあります。
医薬品において「効果が医学的に証明できた」とはどういうことを指すのか? ということを考えてみて下さい。
ある程度ランダムに選んだ治験者達を、薬を飲む群とプラシーボを飲む群とに分けて、薬を飲んでもらい、効果を測定するというのが一般的ではないかと思います。そこでプラシーボ群よりも薬を飲んだ群の方が症状が改善されたら「薬が効いた」ということになるでしょう。

けれども体質や体の中の状態は一人ひとり違うという、当然のことを思い出してみて下さい。健康食品や漢方薬は体質や体の状態などによって効果実感がかなり変わってきます。それは人それぞれ体が違うからです。ある人にはぴったりで似合う服が、ある人にはサイズも合わないし似合わないというのに似ているかも知れません。

医薬品として認められるためには、このような体質や体の状態の違いを超越し、もっと普遍的に有意差を出す必要があります。漢方薬のように「体力中等度以下で、疲れやすくて、四肢が冷えやすく、尿量減少又は多尿で、ときに口渇がある場合の○○の症状」という感じで体質を細かく限定して効能を書くのであれば、その限定された体質の人達だけに効果があると証明すればよいでしょうが、西洋薬ではそこまで限定することはなかなかありません。

残念ながら普通のお医者さんは、その人の体質や体の状態を細かく細かく見極めて薬を出すということはあまりしていないと思われます(例外はもちろんあります)。だから漢方薬のように細かい条件の薬を開発されても使い勝手が悪いかも知れません。

体質に関係なく普遍的に効果が出る薬というのは、人によっては「体に無理をさせる薬」ということになります。ちょっと無理をさせて副作用を出してでも、効果(主作用)を出そうという発想です。漢方薬では副作用が出たら(体に無理をさせていると分かったら)、副作用が出にくそうな薬に変えてみます。ところが西洋薬では、副作用があるならあらかじめ副作用を抑える薬も一緒に処方するという考えになります。

例えば解熱鎮痛薬というのは胃を荒らす可能性が高いのですが、だから胃粘膜保護の薬を一緒に処方したりします。「副作用があるならそれも薬で抑えてしまえばいい」という考え方です。漢方薬ならば胃の荒れやすい人には薬を変えるか、胃に負担のかかる生薬を減らすなどして対応します。

薬(西洋薬)は体に無理をさせる可能性が高い?

薬というのは、効果効能をはっきりと証明されている代わりに体に無理をさせる可能性も高い、だから副作用があるのです。
逆に言えば、体に多少の無理を強いるからこそ効果効能をはっきり証明できるほどの効き目が得られるのです。

ところが「薬を飲んでも効かない」「ずっと飲んでいたら薬の効きが悪くなってきた」などということが起こります。実は、根本は解決されていないのにすぐに表面的な効果だけ出る「とりあえず」の薬が西洋薬には多いのも特徴なのです。こういう薬は病気を治してはくれません。

実は病気の症状というのは、体は「病気を治すのに必要だから」出していることも多いものです。ところがその不快な症状にびっくりしてしまってすぐに薬を飲んでしまうと、根本は何も解決していないのにただ表面の症状だけ抑えるということになってしまいます。
こんな時、体の中では葛藤が起こっています。

薬 「症状出すのやめろ!」
体 「いや、必要だからやってるんだけど……」
薬 「いいからやめろ!」
体 「止められるからずっと我慢してきたけど、こっちも必要だと思うからやってるんだよ。いつまでも薬の言いなりになる訳にはいかない」

そんな風に体が耐えかねた状態が、「薬が効かなくなってきた」という状態です。高血圧や糖尿病の薬などでよく起こりますが、血圧を高くするのは弾力性のない血管で頑張って頭まで血液を送るためで、血糖値が高くなるのはストレスに対抗するためです(他にも原因はありますが)。とはいえ「ストレス≒戦い≒身体活動が活発になる」という時代ではなくなって、ストレスを受けても血液中の糖分を使わなくなったために不具合が起こってくるのですが。

血圧については、薬でない方法で上130まで下げると、病気の発症率が劇的に改善するという研究データはあります。しかし薬で下げた場合でも、それが本当に「健康で長生きできる」ということにつながるのかどうかは、実はきちんと示せる研究データはないようです。

薬の怖い面ばかりを強調してしまいましたが、全ての薬が体に無理を強いる訳でもありません。次項では、発毛効果が確認されているフィナステリド(内服)とミノキシジル(外用)について副作用や危険性を個別に考えていきます。